飛び散る薄い朱色。過ち。脳がイかれたクリスマスイブ
12月 25th, 2009
カテゴリー:ちょっと笑えるネタ記事
2009年12月25日。午前2時。嫁が「プレゼントは夜中に枕元に置いて欲しい」と言いながら午前1時までリビングで寝ているというギャグみたいな聖夜で事件は起きた。
今年は結婚後初のクリスマスで、嫁が張り切ってベトナムやイタリア料理を作るという多文化風景の食卓は既に寂しく、僕は残った食べかすをシンクに流しながら食器を片付けていた。
あらかた食器を片付けて、最後に余った食材を確認しながら冷蔵庫に調味料などをしまってる時、僕は見つけてしまった。
そう。今日という特別な日の為に嫁が買ってきたロゼ色のシャンパンだ。
嫁が買ってきたシャンパンは非常に炭酸がきつい上に辛口で、甘口を好む僕の舌には合わず、炭酸が苦手な嫁も早々に焼酎に切り替えたのでコップ3ないし2杯分ちょっとのシャンパンが瓶に残っていた。
どうせ取っておいても飲まないので、もう捨ててしまおうと僕はそれを手に取った。決めたからには遠慮なく、それをボヂュボヂュ音を立てて排水溝に流し込む。
その時、僕の体の奥深くから1匹の悪魔が声をあげた。
「それ、振ってみたくね?」
動揺した僕はハっとして瓶を戻す。脳に流れるアドレナリンが脈打ち、心拍数が上がり、息が粗くなる自分が怖かった。
体の奥からは悪魔しか顔を出さなかった。ここで冷静になれる天使が現れたのなら、大人なんだなと、今の僕は思う。
振るしか無かった。
TVでおめでたい時、あの狂気すら感じる行為をそっと一人で楽しんでみたかった。そう、僕はみんなに笑顔になって欲しかっただけだ。一人だけど。
僕は時々こういう悪魔が顔を出して理性をぐちゃぐちゃに壊す。母からも「あんたはたまに理解不能なおかしい事を言う」と罵られる始末だ。
だって、みんなも一度は振ってみたいだろう?ビールでもなくシャンパンなんだ。こんなの振られる事が使命じゃないか。振ってなんぼだ。振らなきゃこんなのゴミ以下だ。
気づいたら僕は瓶の口に親指をかけていた。
迷いはしない。
決意した僕の心は阿修羅すらも凌駕する。
振った。
1シェイク。
2シェイク。
3シェイク。
シャンパンの瓶から溢れんばかりのリビドーが親指の腹に訴えかける。
「出したい」
普段クールな建前のシャンパンからは想像もできないような朱色に染めた産声が聞こえなかった。
4シェイク。
5シェイク。
「もう……限界……溢れちゃう……から……」
さすがに僕の親指もリミットブレイクしそうだった。支えきれない物は背負わない。墓に持って行けん物は抱え込まない事に決めている。
瓶を逆さにし、排水溝の方へ向け、僕は指を少しだけ、
そっと、
放した。
時に世の中では常識では考えられない事が起きます。ナスカの地上絵や幽霊など、世界は不思議で満ち満ちています。
その一つであるシャンパンのエネルギーという物を、みなさんご存知でしょうか?僅かコップ2杯程度のシャンパンを瓶の中で5シェイクするだけで信じられない程の力で吹き出すのです。
辺りは雪と勘違いしそうな程の泡で包まれ、シンク内では収まりきれない液状の物質は奇跡に近いほどの距離を飛ぶ。
膝をつく。
僕は、
絶望した。
そこから先の意識は少し霞んでいる。
一瞬の気の迷いがこんなにも涙を生むなんて知らなかった。
天井、床、壁、カウンター、リビングテーブル、洗い終わった食器、換気扇、服、体、そして僕の心がたちまち朱色に染まる。
脳が理解を拒む。
だって……深夜2時なんだもん……。お、お、俺……今から嫁の枕元にプレゼントを置いて、クリスマスを迎える予定なんだ……。こんな事って……ありえちゃいけない……。ダメなんだよ……。
僕の中の悪魔は既にどこかへ消えていた。
しかし、飛び散ったシャンパンを拭いている自分があまりに滑稽で笑えてきた。ふふっ、サンタさんも粋な物プレゼントしてくれたもんだ。
目的は果たせた。
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